国常立尊とは
日本書紀では一番最初に出てくる神です。おそらくですが、一番最初の神がこの国常立尊(くにのとこたちのかみ)です。
ちなみに2番目に出てくるのが国狭槌尊で、3番目に出てくるのが豊斟渟尊です。
天地開闢の時に出てくる神です。
国常立尊(くにのとこたちのみこと)は日本書記の表記です。
国之常立神(くにのとこたちのかみ)は古事記の表記です。
日本神話の最初は、世界が混沌として何も定まっていないところに大地が現れるところから始まります。
この時に出てくるのが国常立尊です。
国常立尊は「大地が出現したこと」を表す神です。
「くに」はもともと自然の国土の意味です。だんだんと支配領域のことを「くに」というようになったようです。
常(トコ)は床(トコ)で、土を盛り上げた土台、つまりは大地のことを表します。立は煙がたつなどの「タツ」で、出現するという意味です。
日本書紀に載る異説ではほとんどが国常立尊から始まります。要は大地から始まっているわけです。
この時の描き方には天地が定まるのような記載が多いですが、天の神は後からつけられた感があります。天の神が先に来るのは古事記だけで、日本書記では7つの異説の2つにだけ天の神が出てきます。
私見ですが、大昔に、まだ文字もないころに、日本に住んでいた人達の一番最初の認識として、この「大地の由来」からスタートしているのではと推測されます。ギリシャ神話ではカオス(混沌)からスタートしますが、異説ではガイア(大地)からスタートします。これらは世界神話学ではローラシア型神話として分類される話の類型の1つでもあります。
天の神は後付けなのか、もしくは忘れ去られたのか、その辺りはわかりませんが、古事記・日本書記は非常に政治的な文書なため、大地の神と天の神の関係は、その当時の政治的な何かで記された可能性が無きにしも非ず、というところでしょうか。
国常立尊の別名
国常立尊(くにのとこたちのかみ)には別名があります。
日本書記の異説1と異説3には国底立尊(くにのそこたちのみこと)というものがあります。
また、古事記では国之常立神(くにのとこたちのかみ)という名前になります。
話を覚えるために「名前」にする
国常立とは大地が出現した、という意味とすると、神話の名前は「話を覚えるために固有名詞にした」ということが言えます。
昔は文字などなかったわけで話は記憶しておくしかなく、人に伝える場合は口伝でした。
記憶はあいまいなもので、定着させないとすぐに忘れてしまいます。
記憶に定着させやすい方法は、音程の変化(歌)と関連付けです。
関連付けはその現象自体を名前にしてしまえば簡単です。日本では現象をことごとく名前をつけて神にしました。
これは推測ですが、文字が導入されるのが遅かったというのが、八百万ともいわれる神様の大量生産につながったのではと、私見ですが考えています。
儀式などに独特の節や音程がついているのは、理にかなっているのです。
国常立尊という名前が最初です。
日本神話の最初は混沌から大地が出現したです。だからこそ、最初の神様が国常立尊なのです。
そのため、神様の名前を羅列すれば、最初の世界ができる部分はストーリーを語ることができます。
これは私見ですが、覚えておきやすいために、そのように発展したんだろうと思います。
天地のはじめ
これは私見ですが、日本書記の「故曰く」よりも前にある部分は、日本書記の冒頭文で神話としてはこの日本書記の時に作られた、と考えています。
天が先で地が後、というやつです。
その後の記載では、天地が先とは書いてないように思います。
天地の中にある物が生まれたとあるのが国常立尊で、だからこそ、この「大地が生まれる」が日本の神話の始まりだと、自分は考えているわけです。
ギリシャ神話のカオス
日本の神話では、一番最初の現象のまえの「混沌」とした状態を神とすることはありませんでしたが、ギリシャ神話にはその一番最初の混沌とした現象にも名前が付けられています。
それがカオスです。
カオスは、奈落のタルタロス、大地のガイア、愛と欲望のエロース、暗黒のエレボス、夜のニュクスを生み出します。
国常立尊は大地のガイアに近いのかもですね。
日本ではこのカオスには神の名前をつけなかったわけで、この違いは興味深い現象だなと思います。